松本人志の生い立ち⑥−中学・高校

 まず確認しておくこととして、放送室では中学・高校の話は比較的少ない。高校時代に関しては、高須と松本が別の高校に行ったため、そして松本自身が「高校なんかおれぜんぜん面白なかったわ」(026)と言うとおりに面白いことが無かったために喋ることが少ないのだろう。
 中学校時代については、「中二はおもろかったな」(026)と松本が過去を振り返って唯一面白かった時期として挙げており、番組名の由来となった放送部も中学校時代の話なのだが、その話題に触れることはあまり多くない。それについて考えられる理由をいくつか挙げれば−

 ①ラジオでよく話される過去の貧乏話だが、姉や兄がバイトができる年になり、自身もバイトをするようになったために、金銭的な部分では若干余裕ができた。もしくは欲するものが玩具から性欲の方向にシフトしたために、『どうしても欲しい高価なもの』を求めなくなった。
 ②中学校の時からできた、彼女に関する話には、松本は明確な線引きをしているようで、ほとんど話をしないため。照れと彼のポリシーの為だろう。
 ③現在の相方である浜田との思い出をラジオで語ることへの照れ。
 ④ラジオで話される面白い昔話は、挫折・屈折の経験が主であり、楽しかった時期には挫折は少なかったはず。また挫折・屈折が少なかったからこそ楽しかったのだろう。

−などが考えられるだろう。

■中学校

松「中学の時は、ちょっと戻りたいわ」

高「中学のいつぐらい戻りたい?」
松「中2やな。中2はおもろかったなあ」
高「中2はおもろかったなぁ」
松「あれは、おもろかった」
高「おもろかったよ。おもろい奴がおったもん」
松「あの1年間は、ほんまに」
高「面白かったな」
松「でも、そこから以降もう、ぐずぐずやな」(026)

 「過去に戻りたいか」と問われて、「戻りたくない」と答える松本が、唯一面白かったと答える中学二年生のときに、初めて浜田と同じクラスになっている。それまで互いに面識はあったようで、高須は小学校のときから浜田とは仲良くしていたようだが、松本と浜田が友達になったのはこの中2からだった。

高「そん時に自分と浜田が逢うたんやからな。同じクラス」
松「そうそうそう、初めて俺同じクラスになった。初めて喋った」
高「それまで喋ってないからな、ほんまに」
松「そうやねん」
高「そうやで。凄いクラスやってん、だからあん時」
松「そうやねんなー」
高「そうやで。あの時に浜田と同じクラスになってなかったら、友達になってないねん」(026)

 この時の中2のクラスは、松本曰く、余りに「ガッチリいきすぎてた」ために、中3のクラスでは松本のグループは全員バラバラのクラスにされてしまうほど、松本のグループは弾けていたようだ。この中3のクラス分けで、松本は「特に俺なんてほとんどひとりにされた」「負ばっかりのクラス」「ここでウケて何になるねん」「「こんなに出来へんねや、こいつら」」というような、高須から見ても「笑いのわかってない奴が多い」クラスになってしまった。

 このために中3はあまり楽しくなかったようだが、バラバラにされた結果、松本のグループは放送部に集まることになる。

松「中三でみんなバラバラにされたもんやから、みんなかなわん言うて、放送室、みんなが勝手に放送部やいいだして、」
高「これがまた問題になったやろ」
松「で放送室をみんなで陣取ってやな、もうみんな溜まり場みたいになったんや。これがまたおかしなったんや」
高「まあ、でもおもしろかったやろ。放送部も」
松「…まあまあね」

 そしてこの後、伊東と浜田の大喧嘩が起こることになる。結果、伊東氏は放送部に来なくなり、松本のグループとは遊ばなくなった。「一時期3人でよう遊んでた」松本だったが、この事件以降は浜田と二人で遊ぶことが多くなったと推察できる。二人で高田みずえのコンサートに行ったり(073)、ジュリーのカセットで騙されたり(160)、一緒にじゃんじゃんをやりにいったり(084)、ダブルデートをしたり(078)というのはおそらく中2から中3頃のエピソードで、その頃の浜ちょんとの関係が伺えるものだと思う。

悪行

 「ガッチリいきすぎてた」ために中3ではバラバラにされたという、当時の松本たちだが、バラバラにされなければいけないようなグループとはどういうものだったのか。それは「坂西の家」のエピソードでよくわかる。 

高「でも考えてみ、自分。あの、坂西の家な、」
松「うん」
高「あいつなんや、もう「遊べへん。」言うて」
松「あいつ「家おれ。」言うたのに、おれへんかったんや」
高「おれへんかったから、」
松「うん」
高「あのー、「家の扉を開けたろかー」って開けて」
松「うん」
高「ギコギコのこぎりで開けて、」
松「うん」
高「で、もう中、勝手に入ってよ?」
松「うん」
高「もうドア、もう半分なんや分かれへんわ。穴開いてもうて、真ん中くらいのとこ、ポストのとこな。そっから手入るようにして開けとるから」
松「うん」
高「中入りました。中入って、なんかタンスでションベンしたりとかやで?」
松「うん」
高「親父のそのー、なんやあの、一升瓶中に、これもションベンやったかな」
松「こしょうや」
高「こしょうか。入れて、うんこそのままにしといたりとかな」
松「うんうん」
高「そんーなことな、」
松「うん」
高「考えられへんで」
松「(笑)」

高「めちゃめちゃやで。あれも」
松「まあ、そやね。考えたらめちゃめちゃや」(231)

 また武道館での公開録音で話された修学旅行の話からも、悪戯の一端が伺えるが、それよりもその修学旅行が楽しかったという空気が見える話でもある。この公開録音では、伊東、和田、藤井、浜田の四人がゲストとして招かれた。

浜「俺は、こいつが床の間でうんこしてるから、ペンライトでずっと肛門照らしてたんや」
高「それはその後やねん。まず自分が、「ションベンしたいわー。」言うて、」
松「うん」
浜「うん」
高「空き缶にションベンが絶対入れへんのに、そこにションベンしてたんや。ザーッ」
浜・松「ははは」
高「全部、バタバタバタバターってこぼれてんのに、」
松「ははは」
高「で、松本が触発されて「うんこしたいわー。」言うたんや」
松「そうそう」
浜「せやせやせや、そうや」
松「いやー、」
伊「口火切ったんやな。やっぱな」
浜「ははは」
高「めちゃくちゃや」
松「ボンがかわいそうでな、ボン物凄い熟睡してんのに、」
伊「あー」
松「「200カンデラをあてたるー!」言うて、」
高「やってたやってた(笑)」
和「ははは」
高「やってた(笑)」
松「「そんなお前には、200カンデラや!」言うて、懐中電灯ビカーッ、やって」
浜・和「ははは」
松「「もうええって。もうやめてーやー。もうやめてーや。」
高・浜「ははは」
高「あれはおもろかった(笑)」
伊「200カン…(笑)」
松「で、バヤリース飲んで…、ボン寝てんねん。ガー寝てるとこにな、バヤリース飲んだら口ぬるぬるなるやん。それのタンを、ピュー…、つるん。ピュー…、つるん。(タンをボンの顔の上で垂らしたり、戻したりしている)」
伊「やっとったやっとった(笑)」
松「最後かけな終らへんやん。ダラーっなって。「もうやめてーやー」」
全「(笑)」

■高校

悪い高校

高「自分の高校、あれ、なんやあれ」
松「あそこはちょっともー、」
高「あそこ、1番ばっか集まってくるやろ?」
松「おかしかった。インターハイみたいな感じやね」
高「いや、ほんまやで」
松「うん」
高「あの、近畿のいろんな中学校の一、二番が集まってくるやろ」
松「そうそうそうそう。逆にケンカなかったけどね」
高「だからちゃんと、できてるねん。えっ、謀反は起こせへんの?」
松「ほとんどケンカなかったで。あっても、それもピラミッドの下の方やわな」
高「あ、なるほど。上の方は決まってて」
松「かっちり決まってんねん。もう。入学式からもう決まってんねん。「あーこれはこれは。」みたいな感じやねん」
高「「どこどこのなになに君」」
松「「どこどこのなになに君」みたいなことやねん」」(112)

 松本の通っていた高校は特に悪い高校だったという。「番長が生徒会長」「クラス40人が全員そろうことがほとんどない」「授業中でも机並べて寝てる奴がいる」「先生が授業の前に吸殻掃除をする」というような状況で、「ルールがなさ過ぎて面白くない」というほどだった。
 そんな中で松本は、なぜか周囲から一目置かれる存在になる。

松「俺らの学年の時は、俺らのクラスにおった奴が生徒会長やった」
高「ああ、そいつトップやったんや。それとケンカしたんや自分?」
松「ちゃうちゃう。それが「松本は怒ったら何するか分からん」って言うた。
 なんか知らんけど言うたんや」
高「うわ、物凄いええやんか」
松「なんか分からへんねんけど「こいつは、ちょっと、おかしい」みたいな」
高「うわ。
松「…違う意味で言うてたんかもわからん」
高「ははは」
松「ははは。」
高「でも、それが、そういう風に…」
松「それがなんかそういう風になったんや」
高「一発のCM広告が」(084)

高「「悪い奴がみんな集まってるでー」言うてたもんな」
松「そうやねん。ただ、何故か俺は、なんかちょっと強いって思われてて」
高「これが得したなぁ」
松「これが、なんか、これで3年間乗りきった、みたいなとこあるで」
高「これさあ、入り口間違ってたら、もうほんま人間やめてるかもしれへんな」
松「いやほんまに、ほんまに。うん」
高「なあ?」
松「うん。でも、いやでもね、それもあんねんけど、「この学校で、なめられたら、絶対3年間、最悪や」っていうのは、やっぱりあったのよ」
高「あー、そうやろなあ」
松「うん。だから、強かないけど、強かないけどもしなんかあったときは、とことんやらんと、もう3年間もう水の泡になるから、っていうのは。そういう危機管理、」
高「はは、なるほどなるほど」
松「それは持ってたから。それがちょっとこう、伝わったんかもわからへん」
高「なるほどな「あっ、こいつなんか本気や」っていうのが」
松「なんか物使ってでも絶対何とかせなあかん、っていうのは」
高「3年間えらい目にあう」
松「もうえらい目にあうから」(056)

 どうしようもない不良高校で、松本は最初にケンカをする。そのケンカは「一発殴っただけで、先生に止められて」というようなものだったが、その結果、学校で一番強い同級生に一目置かれるようになり、そのまま三年間うやむやにしたという。 
 また松本は、別の高校に通っていた「ミス的な彼女」の送り迎えをする「ヒモみたいな」ことをしていたという。

高校のときの、松本と浜田と高須

松「そんな、高校時代やわ。考えたら。だからなんにもないな」
高「え、その時、浜田と会うてた?ちょこちょこしか会うてないやろ?帰ってきた時しか会うてないやろ?」
松「ちょこちょこ、しか会うてないな」
高「俺だから、一回、俺が浜田のとこ行ってて、」
松「うん」
高「浜田が帰ってきた、言うて。で、風呂屋行くやんか。あいつ、その、昭和風呂」
松「うん」
高「んで浜田が昭和風呂おって。俺さっとんと一緒におったから」
松「うん」
高「昭和風呂の前でおったら、「おおー、帰ってきたんやー。」「帰ってきてん。帰ってきてん」て喋ってて、えらい、話に花咲いて」
松「うん」
高「で、浜田の家の前で喋ってたら、自分が来たんや」
松「うんうんうん」
高「一人すーっと来て。で、「おお、久し振りやな、まっつん!」みたいなことなって、そっからまた、夜中の12時過ぎまで、ずーっと喋ってたで」
松「あぁ」
高「何喋ったかわからんけどなあ」
松「うん」
高「そん時に、俺「あ、久し振りやな」って自分と会うたん、そうやなあ、浜田介さな会ってないもんな」
松「あんまり会うてない。高校ん時は」
高「だから、浜田とこ行ったら、自分がおったみたいなとこあったもん」
松「うん」(056)

 高校の頃は、松本と高須はあまり会っていなかったようだ。高須は当時、松本よりも浜田と親しくしていたらしく、浜田を介して松本と会うという程度だった。浜田はその頃全寮制の高校に入っていて、帰ってきたときに松本と会う、という様子だったと思われる。
 その頃は、漫才やお笑いという世界を志すという気持ちはまったくなかったという。

高校卒業

 高校卒業後は、日刊アルバイトニュースの印刷工になるはずだった松本だが、浜田の誘いを受けて吉本興業がその年に開校したNSCに入ることになった。その入学には、単に働きたくなかったという気持ちもあったという。

松「高校卒業間近の時に、俺、おかんに言うたよ」
高「うん」
松「「あんた、就職どうすんの?」」
高「うん」
松「「俺、もうせんとこ思ねん。」て」
高「うん」
松「「もう、バイトでええやん。」と」
高「うん」
松「「バイトの方が、結局、一ヶ月稼げるでー。」って言うたら」
高「うん」
松「「アホか、あんたはー!」言うて」
高「そんなんあり得へんで」
松「「あり得へんわ、あんたー!」言うて」
高「言うてた、言うてた、言うてた」
松「「もうあんた、そんなことお父ちゃんに言うたら、もうあんたもう、」」
高「「あんたもう、」」
松「「アレやでぇー!!」言われて」
高「なんやねん(笑)」
松「ははは。」
高「おかん、そこや。パシッ!と言うたらな。そこ(笑)」
松「「あんた、またアレやでー!」言うて」
高「言うて(笑)」(177)

松「20年ですよ」
高「ダウンタウンも20年ですよ」
松「ほんまや」
高「こんな感じになる思うとった?」
松「うーん…」
高「どう?あの、18やろ。そのころさあ18で芸人なろうと思いましたわ。思いましてね、これ、20年後にはどないなってると思ってました?」
松「あのねーそんなもん、振り返ってみれば、よう考えたばねえ、」
高「うん」
松「そんなんあんま考えてなくてねー、働くのがいややったんや」
高「うん。普通に働くのがな」
松「うーん。いや、普通に働くとかじゃなくて、「働く」んがいややってん」
高「単純に労働がいややったんや」
松「うん。で、高校卒業するとき、みんな就職が段々決まっていくやろ?」
高「決まっていく。決まっていく」
松「もうそれがいやでさー」
高「うん」
松「「なんで就職せなあかんねん。」いまでこそほら、フリーターという便利な言葉があるけど」
高「当時無かった」
松「当時無かったやんか。んで、今はバイトやって食うていくっていうのもそんなに…?」
高「まあな」
松「まあまあ20代前半なら許されるくらいの感じやんか。当時そんなんなかったもんな。高校後半年くらいで卒業やいうときに「就職せえへん」なんかいうたらもう「あんた何考えてんの」言われて」
高「「近所に顔合わせできへんわ」言うてたもんな」
松「うん。俺、おかんに言うたもん。就職したって、月、あれ、なんぼ?10何万貰うぐらいやったら、「バイトしたほうが稼げるから、バイトずっとしてたら、あかんのかいな。」言うたら」
高・松「「アホかあっ!!」」
高「分かるわ、そんなもん。絶対おばちゃん言うわ。「アホかあっ!!人志!ちょっとおいで、もうあんたは!」」
松「はは。って言われたもん」
高「うん」
松「だから俺、まあ、そういう意味じゃあ大学行きたかったわな」(043)

 当時、NSCに入った頃は、売れるとかどうこうじゃなく、「とにかく仕事がしたくなかった」(043)という。NSC入学にはそういった背景も絡んでいた。